抽象主義


音楽を絵画に表現したこと
から始まった抽象画


現代アートのルーツに迫っていきたいと思います。歴史を紐解こうとするとつい時系列に従いがちですが、あえて遡るかたちで。都心から古都、あるいは郊外に向かう車窓の景色が徐々に変化し、現代から古き良き時代にタイムスリップするようなそんなイメージで、アートの源泉を目指したいと思います。

まずご紹介するのは現代アートに最も影響を与えた二人、カンディンスキーとモンドリアンです。それまでのアートは風景や静物、人物など、目に見えるかたちあるモノを描くものでしかありませんでした。しかし、彼らは目には見えないかたちのないモノをつくり出したのです。アートの歴史を変えたと言っても過言ではない二人についてお話しましょう。

もともと美術理論家だったカンディンスキーは30歳のときにモネの「積みわら」の鮮やかかつ深みのある色彩に衝撃を受け、画家になったと言われています。画家に転身してしばらくはヨーロッパ各地を巡り古典的な風景画を描いていました。しかし、それから5年ほど経った頃、バウハウスの友人たちと行ったシェーンベルクのコンサートで衝撃を受けます。そして、その作風を抽象画へと大きく転換しました。彼はそれまで誰も見たことのない音楽そのものを描いたのです。

モンドリアンもカンディンスキー同様、もとは風景や樹木を描いていました。有名な「リンゴの樹」の連作を見ると、彼が抽象画へと進むアプローチを感じ取ることができます。彼は、徐々に自然を描くことをやめ、街を描きはじめました。そして名だたる画家たちが探求しつづけてきた奥行きの表現(遠近法)を排除し、作品自体が完結したものとして額縁さえ排除したのです。ミニマルアートの原点とも言われているモンドリアンの作品はアート界を越え、建築界やデザイン界、ファッション界にも多大な影響を与えました。イヴ・サンローランが1965年に発表したモンドリアンルックが有名ですが、今では当たり前となったファッションとアートのコラボレーションも彼からはじまったといえるでしょう。彼らが活躍した時代背景には、世界を巻き込んだ大戦の終わりがありました。混沌とした時代のなかでイデオロギーの孤児となったアーティストたちは新しいモノをつくり出すべく挑戦に掻き立てられたのです。  

そして、もう一つ。カンディンスキーはクラシックを、モンドリアンはジャズとダンスをこよなく愛していました。そして、愛する音楽と共に楽しんで絵を描いていたのです。不器用だとか技術がないとか、そんなことはどうでもいい。自分の好きな音楽を感情の赴くままに描いた二人のように、好きな音楽を描くところからアートをはじめてみてはどうでしょうか。背景は違えど、我々が生きる現代も混沌とした時代と言われています。彼らがそうしたように我々も挑戦しつづけるべきなのかもません。さあ、色鉛筆を買って、想像と創造の旅へ出かけましょう。

©Photo Scala,Florence/amanaimages

Wassily Kandinskyワシリー カンディンスキー

ワシリー・カンディンスキーは、1866年12月16日生まれ。ロシア出身の画家。美術評論家でもあり、1922年からはバウハウスで教鞭をとる。1933年にナチス・ドイツによりバウハウスが閉鎖されるまで勤務した。主にドイツ及びフランス、ヨーロッパで活躍した。抽象絵画を描いた最初の画家と言われている。1944年12月13日(77歳)没。

©Mondrian/Holtzman Trust/Bridgeman/amanaimages

 

ピエト モンドリアン
Piet Mondrian

1872年3月7日オランダ生まれ。カンディンスキーと並び、抽象画を描き始めた最初期の画家の一人とされる。モンドリアン自身が、人工的に作り出す世界は、自然を超越しより美しいと語っている。水平と垂直のみによって分割された、クールな抽象画と言われている。
1944年2月1日(71歳)没。


公開日:2020年1月1日

更新日:2020年1月1日